2015年12月25日金曜日

情報処理力から情報編集力へ 「東京都で義務教育初の民間校長」を務めた藤原和博が語る、教育環境のパラダイムシフト

―― 長年に渡って実際の教育現場に携わってこられていますが、まずはご自身の立場から、海外と日本の教育環境の違いをどう捉えているのかお聞かせください。

 日本の教育システムは、約140年前から基本は何も変わっていません。1人の教師が多人数の生徒を教える「一斉授業」というスタイルです。一方、欧州やアメリカなどでは、生徒同士のコミュニケーションを重視したアクティブ・ラーニング(※教員による一方的な講義形式の授業ではなく、生徒の主体的な思考や意見のプレゼンを取り入れた学習法)が行われています。フランスにおいては、6歳からディベートの授業があるほどです。

―― 国語などの授業内容にも違いがあるんでしょうか?

 例えば、ヘミングウェイの作品に登場する人物の感情の動をテーマに生徒の考えを徹底的に聞くので、多面的に考える「クリティカル・シンキング」が求められます。私はそれを"複眼思考"と訳しています。つまり、奇麗ごとだけ言われたら後ろからはどう見えるのだろうと想像したり、右からだけ指摘されたら左からの視点もあるというように考える。欧米の国語の授業は、解釈の決めつけではなく、そういう柔らかい思考法を養います。

―― クリティカル・シンキングに触れると、どういった生活態度が身につくのでしょう?

 日本のテストによくある「四択問題」のように、初めから教師が選択肢を与えてしまうと、どんな問題に対しても仮説や正解は誰かが与えてくれるものだ、という態度が身についてしまうでしょう。分かりやすく言えば、シグソーパズルのようなもの。最初に完成形、つまり正解を提示されていて、次にバラバラにしたピースを埋めていくという。しかし、社会に出たらそうはいかない。複眼思考によって、自ら課題を見つけ、仮説を自分で設定し、徹底的に試行錯誤しながら納得できる解に辿り着かなければなりません。

―― ひとたび学校を離れてしまうと、答えが用意されていないことばかりかもしれません。

 会社生活に限らず、例えば、結婚相手にしてもそうですよね。自分にとって最適なパートナー(夫や妻)が、正解の人はこの人ですよと提示されることはない。就職に関しても同じで、無限の組み合わせが存在します。私も就職活動中の学生から「A社、B社、C社のうち、正解はどの会社だと思いますか?」なんて聞かれることもありますが、正解なんてあるわけない。自分自身も会社も常に変化するわけで、その中で互いのベクトルを合わせることが仕事というもの。

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