2014年4月25日金曜日

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』莫大な熱量に触れた心は時空を超えるのだ

女性声優の声をサンプリングした歌声と、なぜか長ネギを振ってる可愛らしいイメージキャラクター。浮かんでは消える"萌え"のアイコンがまた一つーーという第一印象を裏切って、初音ミクは音楽のシーンをまるっと様変わりさせてしまった。
初音ミクは、ヤマハが開発した音声合成技術を応用した製品群「ボーカロイド」のうち、北海道にあるクリプトン社が開発したもの。コンピュータを"歌わせる"ソフトウェアであり、これにより作られた曲を「ボカロ(ボーカロイドの略)曲」という。初音ミク以前にもあるにはあったが、ニッチ中のニッチ。それが今や、オリコンランキングのトップに躍り出ることも珍しくなくなり、カラオケに行ってもボカロ曲が充実しすぎて選曲に困るほど。
そんな日本の音楽カルチャーの転機は、2007年に訪れたという。違法コピーがはびこってCDが売れなくなり、「音楽の死」がささやかれていた頃だ。いったいなにが起きたんだ?

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』は、呆気にとられてる僕らにそれを教えてくれる本だ。キャラクタービジネスではなく、過去から未来へと脈々と続く音楽史の中で位置づける視点から。
本書の中で重要なキーワードとなるのは「サマー・オブ・ラブ」。アニメファン的には『エウレカセブン』で初めて聞いた言葉だったが(劇中では「史上最大の災害」という意味)ロックやクラブミュージックの歴史における一時代のこと。カウンターカルチャーとしての新たな文化を生み出し、熱気に満ちた時期を指している。
これまでサマー・オブ・ラブは2回起きた。最初は1967年からの数年、ベトナム戦争のさなかの反戦運動やドラッグ文化が混ざり合ってウッドストックで最高潮に達したもの。二度目は80年代後半のイギリスでテクノやアシッドハウスなどクラブミュージックが盛り上がったことだ。初音ミクは、20年周期で起こるその現象の"三度目"だというのだ。

本書の著者がスゴいのは、実際に前回や前々回のサマーオブラブ(数十年前!)に立ち会った人達に会いに行っていることだ。過去から現在へと続く音楽史の中に初音ミクを置くアイディアを机上の論に終わらせず「当時の熱気」を確かめに行っているのだ。
この試みは大正解だ。70年代のフォークロック黄金期を支えたエレックレコード・萩原克己社長の生前最後の証言を残したことで資料的価値もすこぶる高い。同時に、孤立した点に見えるムーブメントを繋ぐのが"人"だと示しているからだ。

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